失敗の大半は回線ではなく端末側で起きる
MNP(携帯電話番号ポータビリティ)の手続きそのものは、対応事業者どうしならオンラインで完結する。つまずくのはその前後だ。移せなかった電子マネーの残高、ログインできなくなったアプリ、開通後に気づく写真の消失。どれも回線が切り替わった後では取り返しがつかない。作業を「購入前」「乗り換え当日」「開通後」の三つに分けて進める。
購入前にやる四つの準備
バックアップは端末まるごとと個別アプリの二重で取る
iPhoneはiCloudかパソコン、AndroidはGoogleアカウントへのバックアップが基本になる。ただし端末まるごとのバックアップに含まれないデータがある。代表例がLINEのトーク履歴、ゲームのセーブデータ、銀行や証券のアプリの認証情報だ。これらはアプリ側の引き継ぎ機能を個別に使う。写真と動画は容量が大きく、クラウドの無料枠を超えて途中で止まることがある。「バックアップ完了」の表示を目で確認してから次に進む。
ID・パスワードと2段階認証を先に整理する
新端末で最初に必要になるのは、Apple IDまたはGoogleアカウントのパスワードだ。ふだん指紋や顔認証で入っていると、パスワード自体を覚えていないことが多い。買う前に一度、手入力でサインインできるか確かめておく。
2段階認証はさらに注意が要る。2段階認証とは、パスワードに加えて認証コードの入力を求める仕組みのことだ。SMSでコードを受け取る設定のサービスは、回線が切り替わる前後にコードが届かない可能性がある。認証アプリを使っている場合は、アカウント同期やエクスポート機能で新端末へ移す。どちらも使えないときのために、各サービスが発行するバックアップコードを紙かパスワード管理アプリに控えておく。ここを飛ばすと、銀行アプリやSNSから締め出される。復旧には本人確認の書類提出が必要になり、数日かかることもある。
おサイフケータイと電子マネーは残高を預けるか使い切る
おサイフケータイやApple Payに入れた電子マネーは、端末を初期化すると残高ごと消える。移行手順はサービスごとに違う。旧端末で会員メニューから残高をサーバーへ預け、新端末で受け取る方式が多い。交通系ICカード、流通系の電子マネー、ポイントカードのいずれも、それぞれ専用の手続きがある。
iPhoneとAndroidをまたぐ場合は、移行できるサービスとできないサービスが分かれる。移行できないものは、残高を使い切ってから旧端末側で退会するしかない。手放す前に、端末に入れている電子マネーを一つずつ書き出し、各サービスの公式サイトで機種変更時の手順を確認する。
SIMロックとeSIM対応を確認する
SIMロックは、購入したキャリア以外のSIMカードを使えなくする制限だ。2021年10月以降に発売された端末は原則としてロックがかかっていない。それ以前に購入した端末や中古端末は残っている可能性があるため、端末の設定画面かキャリアのマイページで状態を確認する。
eSIMは端末に内蔵された、差し替え不要のSIMだ。オンライン申し込みで即日開通しやすい一方、対応していない端末もある。物理SIMとeSIMでは申し込み方法も開通作業も変わるため、どちらにするか先に決めておく。eSIMを選ぶ場合、開通作業にはWi-Fi環境が必要になる。
乗り換え当日の流れ
MNPには現在二つの方式がある。MNPワンストップは、乗り換え先の事業者だけで手続きが完結する方式で、予約番号を取る必要がない。対応している事業者どうしの乗り換えでのみ使える。対応外の事業者が絡む場合は、従来どおりMNP予約番号を現在の事業者から取得し、その番号を持って乗り換え先に申し込む。予約番号には有効期限があり、切れると取り直しになる。自分の組み合わせがワンストップに対応しているかは、乗り換え先の公式サイトで確認する。
手続きには本人確認書類が要る。契約者名義と書類の氏名・住所が一致していないと審査で止まる。家族名義の回線を自分名義に変えたい場合は、乗り換えの前に名義変更を済ませる。乗り換えと同時には処理できないことが多い。
解約側の費用も先に調べる。端末の分割払いが残っていれば、乗り換え後も支払いは続く。割引や定期契約の適用条件によっては、解約のタイミングで負担額が変わる。契約内容はマイページか窓口で確認し、具体的な金額は必ず一次情報で裏を取る。料金やキャンペーンの条件は変動が速く、他人の体験談や過去の記事の数字はあてにならない。
データ移行はOSが同じかどうかで難易度が変わる
iPhoneからiPhoneへの移行が最も簡単だ。二台を近づけると表示される「クイックスタート」で、設定ごとほぼそのまま複製できる。AndroidからAndroidも、初期設定の途中でケーブルまたはWi-Fiで旧端末とつなぐ手順が用意されている。
OSをまたぐ場合は専用アプリを使う。AndroidからiPhoneへは、Appleが提供する移行アプリを旧端末に入れて転送する。iPhoneからAndroidへは、初期設定時のケーブル接続によるコピー、またはGoogleが提供する移行アプリを使う。ただし移せるのは連絡先、写真、カレンダー、メッセージなど基本的なデータに限られる。有料アプリは買い直しになり、アプリ内のデータは各アプリの引き継ぎ機能に頼ることになる。
LINEはOSをまたぐと引き継げる範囲が変わる。トーク履歴の扱いは仕様変更が多いため、移行の直前に公式ヘルプで現行の手順を確認する。どのケースでも共通して必要なのは、旧端末でのアカウント引き継ぎ設定と、登録メールアドレス・パスワードの確認だ。
開通直後にやる三つの動作確認
開通処理が終わったら、その場で確かめる。まず通話だ。別の電話から自分の番号にかけてもらい、着信と発信の両方を試す。次にデータ通信。Wi-Fiを切った状態でウェブページが開くか見る。ここでつながらないときは、APN(接続先の設定)が入っていないことが多い。設定手順は事業者の公式サイトに載っている。
三つ目が決済とアプリだ。おサイフケータイやQRコード決済は、実際に店舗で少額を支払うまで安心できない。銀行アプリは新端末での再認証が必要な場合が多く、SMSや郵送の手続きが挟まることもある。仕事で使うアプリも含め、当日のうちに一通り起動しておく。
旧端末はすぐに初期化しない。1〜2週間は手元に残す。移し忘れに気づいたとき、Wi-Fiにつなげば取り出せるデータがある。
旧端末は初期化してから手放す
初期化の前に、端末とアカウントの紐付けを外す。iPhoneは「探す」をオフにし、Apple IDからサインアウトする。この操作を省くとアクティベーションロックが残り、次の持ち主が使えない。下取りも断られる。AndroidはGoogleアカウントを端末から削除してから、設定メニューの初期化を実行する。SIMカードとSDカードは抜き取る。
処分方法は、下取りや買取、携帯ショップでの回収、自治体の小型家電回収がある。データが入ったまま捨てるのは避ける。初期化しても不安な場合は、初期化後に無関係な写真や動画でストレージを埋め、もう一度初期化すると元のデータが復元されにくくなる。
迷ったときの判断基準
順番に迷ったら、取り返しがつかない順に手をつける。電子マネーの残高と2段階認証は、失うと復旧に時間も費用もかかる。写真とトーク履歴がその次。アプリの並び順や壁紙は最後でいい。
すべて自分でやる自信がなければ、店頭のデータ移行サポートを使う手もある。有料のことが多いが、手間と天秤にかける価値はある。ただし電子マネーの残高移行と2段階認証の準備は、店頭でも代行してもらえない。この二つだけは自分で片付けてから店に行く。
本記事の手順は機種やキャンペーンに依存しないが、金額・期間・適用条件は事業者ごとに異なり、頻繁に変わる。申し込みの前に、乗り換え先と解約元それぞれの公式サイトで最新の条件を確認してほしい。